正確に言うと、昼食の時間では無く朝食と昼食を一つにした時間。
ガルディーと言う名の、この施設の食事は昼食と夕食しかないからだ。
「お腹空いたー。」
赤毛のセッチがさも空腹そうに擦れ声を出した。
「それより寒いよ。食堂、あったかいかな。」
毛布に包まったまま、パミラーノが寒さにそばかす顔を強張らせた。
「ヴェネー、いつまで外見てんだ。食堂行こうぜー。」
4人の中のリーダー格であるビートが部屋のドアを開けながらヴェネを急かす。
「あ、うん。今行く。」
ビートの声にようやく動き出すヴェネ。
部屋の外に出ると、他の部屋の子供達も昼食のベルを聞いて一斉に出てきていた。
廊下を黄色い声が飛び交う中、ヴェネ達は一階の食堂に向かった。
基本的には食事と昼食後からの雑貨製造や仕分け等の業務時間以外は、4、5人ずつの各グループ
で分けられた狭い部屋から一歩でも出ることは規則違反だった。
トイレも食事の時と就寝時以外は行くことが許されていなかった。
もしも、急患等でどうしても部屋を出たい時は自己申告で、部屋から施設官を呼ばなくてはならな
い。
それも出入り口のドアの中央部分にある檻から声を張ってである。
就寝時間を過ぎれば明くる日の起床時間までそれさえも許されない。
ましてや施設官がその申告を「大した問題ではない。」と判断した場合は、結局部屋からは出られ
ない。
万が一いたずらであったり、勝手に部屋から出た者に関しては、何処ぞの宗派違いによる拷問の様
な酷い罰を受けることになる。
ヴェネたちも何度と無くその洗礼を受けた「違反者」を見てきたが、その姿を一度見ただけで「絶
対にやれない。」と思うほど惨いものだった。
年齢は関係ない。
例えば、ある日の夕食の時間、ニヤつきながら立つ黒人の太った女施設官の横で、自分達より六つ
も七つも下の幼児の顔面が、地面に落とした粘土の様に変形した姿で怯えていた。
その子は何を思ったか、その日の朝方部屋から勝手に出てしまったのだ。
他が昼食後からの業務でガッツリ働いて終わるまでの時間ずっと、何かしらの罰を受けていたのだ
ろうか、その容姿の歪み具合は尋常じゃなかった。
「さあ、みんなに謝りなさい。」
怯える「違反者」の頭を撫で回しながら、不気味に白い歯を見せ施設官が笑う。
ひっくひっくと、弱くしゃくり上げながらその子が喋る。
「僕は規則も・・守れないクズ以下のゴ・・ゴキブリです。・・もう二度と・・こんなことはしま
せん。ごめんなさい。」
言葉にならない言葉を必死に声にして、施設官の顔色ばかり窺う姿が食堂全体の空気を愴然とさせ
、一人一人の瞳に脅威として焼き付けられた。
そんな幼気な「違反者」に施設官はにっこりと微笑んで言った言葉が、
「あなたには必死で規則を守ることくらいしか生きてる意味も理由も無いのよ。例えあなたが死ん
だところで悲しむ人は世界中何処にもいないんだから。」
150人近くもの孤児が一瞬凍り付いた。
この場所には敬も愛も無い。
あるのは限りなく黒に近い、規則と保安だ。
その時、ヴェネ達は世界の仕組みを何かしら理解した気がした。
つまり、この食事の時間はガルディーに収容されている孤児達にとって、生きていく上で唯一解放
される至福の時間なのだ。
孤児達が一斉に集まる食堂はちょっとした教会くらいの広さがあるが、それでも収容されている孤
児達が全員集まるには少し狭く、食事の時間になると溢れ返るような状態になる。
疲れたー。じゃ、次回ってことで。
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