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2009年05月10日
ヴェネはある二人の夢を見る。
それは物心ついた頃から度々見る夢だった。
紗が掛かった様に白くぼやける晴れ上がった空が広がって、広大な丘の一本杉の下、赤い靴を履い
た若い女の人と軍服姿で向かい合う青年が約束を交わす。
青年がヴェネ自身なのかも分かりはしないが、女の人の言葉に頷くと彼女は穏やかな笑顔を見せ、
その後ほろりと脆く泣き出すのだ。
彼女の姿を見て立ち尽くすことしか出来ないのは、頷いた約束を果たせぬ現実からなのか、彼女の
青年に対する未練を深めぬ為の取り留めた愛情の現われなのか、そしてこの夢が一体、何時何処で
の出来事なのか、現実にあったことなのかヴェネ自身の空想でしかないのか、その夢を見続けてき
た今も分かり得ぬことだった。
只、女と青年が互いを深く思慕し合う関係柄であると言うことだけはヴェネにも理解できていた。
夢の中で青年は明くる日、自らの命を投じるべく異国へと発たなくてはならない。
そんな現実を目の前に置かれ女が唯一藁にも縋る様な思いで見出すことが出来た希望が、約束だけ
だったのだ。
その日その場所で交わされた約束が叶うことは果たしてあったのか。
ヴェネはずっと気になっていた。
軍服姿の青年が頷いた赤い靴を履いた若い女の人との約束。
「私は白い花となります。そうしたら、いつかまた巡り合って下さい。私は貴方の愛によって育っ
ていくでしょう。その時はあなたがお考えになった素敵な名前をその花に付けてあげて下さい。生
涯、貴方を慕い側に居続けますから。」
終戦後、青年の戦死通知を頑なに信じぬまま、約束の日から20年もの月日が流れた春日和の朗らか
な日、病の床に臥せていた彼女は青年を恋し続けた生涯を閉じた。
目が覚めると、カビだらけの色褪せた天井が夢と現実との狭間を遮断した。
窓から感じられる朝靄にまだ夜明けが間もない時間であることを汲み取った。
ビートのベッドは何時間も冷たいままで寂しそうに見える。
そう、ビートはまだ部屋には戻っていない。
今現在も無実の罪で「罰」を受けているのであろう。
友達を守ろうとしてやってもいない罪を一人で背負い込んだビート。
ヴェネは再び情けなくなって毛布の下で小さく小さく丸まった。
肩が震えた。
ビートが今どんな気持ちでいるか、どんな目に遭わされているか。
ガルディーでの「罰」は、時の経過に連れ激化を増すばかりであった。
つい最近、「具合が悪い」と午後からの業務に遅れた奴がいた。
ヴェネ達よりも幾つか年下のドリーと言う背が小さくて、官員を目の前にすると人一倍怯える気弱な奴だ。
その日の業務後、ドリーは官員室に呼び出され、そのまま三日間帰って来なかった。
昼食の時間、『黒熊』の罰に関する長い説教話の隣に顔が痣で膨らんでいるドリーの姿があった。
見ると、手首と足首がずっと何かで強く縛られていたように赤黒くなっていて、もともと小柄なドリーが更に一回り小さくなったのではないかと思わせるくらい痩せていた。
そんなことを思い出しながら、ビートを想うと、いつのまにかヴェネは目が冴えていた。
かなり久しぶりなのですが、疲れたんでこのへんで。
posted by 吉田道弘 at 01:11|
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「冬に咲いた花」
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2008年11月30日

暫くすると食堂内が騒然とし始めた。
「そう言えば昨日の夜、ビート達の部屋の方から夜遅くまで話声が聞こえてきました!」
こういう時に決まって始まる、我が身恋しさから来る謂れの無い責任の擦り付け。
班別から同じ班の中の蹴落とし合いまで、自分の身さえ守れれば犠牲は何処でも生まれる。
独裁された様に逼迫した施設の中で信じられるのは自分自身だけだからだ。
この日は、ヴェネ達の班がその標的になったようだ。
それを真っ先に口にしたのはヴェネ達の隣部屋の奴だった。
モリーだ。
モリーは根性がひん曲がった様なところがある。
報復的で、特に根に持った事は決して忘れない。
一週間くらい前、午後からの業務中にモリーがパミラーノに服を一着貸してくれと頼んでいた。
しかし人一倍寒がりのパミラーノのことだ、そんな頼みを聞き入れることも出来ず断っていた。
つまりモリーはそれを覚えていて、そのお返しと言う形でビート達の班に責任を押し付ける魂胆なのだ。
逆恨みにも程がある。
「俺達は外になんて出てねえ。」
当然の如くビートが頑固たる眼差しでモリーの言葉を退けに掛かった。
「何わけわかんないこと言ってんだモリー!」
「そうだ、そうだ!」
パミラーノとセッチが後に続く。
そんな状況下ヴェネは押し黙りながら、モリーの言葉に便乗しながら責任をヴェネ達に擦り付けようとする他の子供達を見ていた。
「そういえば聞いたぞ!ビート達の部屋から話し声がしていた!」
「間違いないよ!外に出たのはビート達の班の誰かだ!」
こうなってはもう真犯人が出ることは絶対に無い。
きっとうまく逃れられたことから今、この食堂内にいる真犯人はほくそ笑んでいるに違いない。
「てめーら、ふざけんなよ!」
ビートが怒ったその瞬間、ざわめく食堂内を「黒熊」の一喝が制した。
「クソガキ共が!うるさいぞ!黙れ!!」
竦み上がる子供達の視線を一斉に集めた「黒熊」がヴェネ達の班を一点に睨み付け手招きをしている。
「来なさい。」
モリーが口の端を斜めに、してやったりと言った表情を浮かべた。
ヴェネ達は立ち上がり官員テーブルの前に出て行った。
横並びになって俯くパミラーノとセッチの隣で、ビートが「黒熊」を真っ直ぐに見つめていた。
そんなビートを横目にヴェネは恐怖に心を縮ませ、「黒熊」の尖鋭な視線を見ることが出来ずにいた。
「それで、誰なのかしら?」
訝しげな表情を見せることも無く「黒熊」が妙な笑顔でヴェネ達に迫った。
弁明の余地は無い。
「黒熊」がこの笑顔を見せている時に言い訳をすると悲惨な目に遭うことは間違い無いからだ。
「部屋を出たのが誰なのか。」「黒熊」のこの問いに関係の無い言葉を発した瞬間に、ジャラジャラとぶら下げた沢山の鍵に豁然と擦れ合う、恐ろしく硬い警棒が顔面に飛んで来るであろう。
ヴェネは何も喋れなかった。
口の中が乾いて来たのか、舌を動かそうとするとねちゃねちゃと回りを張り付き、喉の奥が腫れているかの様に痛くなって来た。
「黒熊」の浮かべる嵐の前の静けさの様なその笑顔に、既に心が怖じ気付いていた。
パミラーノ、セッチ、ヴェネが恐怖に戦慄き立ち尽くす中、そんな三人のリーダーであるビートが言った。
ヴェネは自分の耳を疑った。
パミラーノとセッチも目をぱちくりさせながら眉間を寄せた。
「俺です。俺が出ました。」
ビートが勇ましくも真っ直ぐ「黒熊」を見つめたままそう言っていたのだ。
次の瞬間、力一杯の平手打ちがビートの顔面を捕らえ、耳を劈く様な怒号が響いた。
「おめーか!このゴキブリ野郎!!」
勢い良く倒れ込んだビートを見下ろす「黒熊」を見ると、つい数秒前まで笑顔だった表情が一瞬にして憎悪に満ち溢れた鬼の様な顔に変わっていた。
そんな中で、自分の心が静かにくしゃくしゃと拉げて行くのがヴェネには分かった。
情けなさと、惨めな気持ちで胸が一杯になった。
このままだったら4人全員が何かしらのきつい罰を与えられていたに違いない。
ビートはそれを察すると逸早く覚悟を決め、やってもいない責任を背負い込んだのだ。
腹這いの体を蹴り上げられるビートを尻目に、それでもただ立ち尽くすことしか出来ない自分をヴェネは心底蔑んだ。
静まり返る食堂内はビートが殴り付けられる音と「黒熊」の怒鳴る罵声だけが響いていた。
じゃ、次回で。
posted by 吉田道弘 at 04:43|
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「冬に咲いた花」
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2008年11月27日
時計が正午を回る15分前に子供達は皆、班ごとの席に着かなくてはならない。
遅れて来ることは絶対にしてはいけない。
それはこのガルディーの中では揺ぎ無いルールだった。
例え病気だろうと友が別の施設に移送された明くる日だろうと遅れることは「決して」許されない
。
それをよく理解している子供達はこの日も、誰一人として遅れることなく正午15分前には食堂は
ぎゅうぎゅうとなった。
「今日は食事の前に一つみんなに尋ねたいことがあります。」
あの黒人の太った女施設官が威風のある声を張った。
ぎゅうぎゅう詰めの食堂を入った正面奥の中央にはゆとり多く場所を設けられている官員テーブル
があり、女施設官はその前に立ちながら尖鋭とした眼光で食堂の子供達を見渡していた。
食堂が張り詰めるようにしいんと静まり返った。
「黒熊だ。」
セッチがほんの僅かな小声を漏らしながらその柔和な顔付きを歪めた。
黒熊とは、その女施設官のあだ名だ。
まるで女とは思えない強力で丸太ん棒の様に太い体や黒い肌のがっちりとした腕からなのか、ヴェ
ネがガルディーに来た頃には、子供達の間で既にそう呼ばれていた。
「また、誰かやられたのかな・・・。」
セッチの言葉にパミラーノが畏縮した様子で体を縮み上がらせた。
「でも、ぼく達は関係ないぜ。何もやってないもんな。」
「だよなー。じゃあ、誰なんだろ。」
「おい、お前ら!」
こういう時に決まっておしゃべりになるセッチ達を戒めるようにビートが小さく荒く会話を遮断し
た。
そのすぐ後を続けるかの様に「黒熊」が言葉を発した。
「今朝、あなた達の敬愛すべき施設の人員がまだ目覚めていない様な時間、自分達の部屋を出た人
がいるみたいです。心当たりのある人は前に出て来なさい。」
食堂内の子供達がきょときょとと肩を騒がせながらそれぞれを見合わせた。
「誰だ。」「俺はやってないぞ。」と、ささめき合う声はするが、誰一人として名乗りを上げよう
とする者は出ない。
そうすると本当に身に覚えがない無いと言う子供達が今度はびくつきながら「黒熊」の顔色を窺い
始めた。
痺れる食堂内の空気を目の前に、悠然と構えるように表情を変えず「黒熊」が怒鳴り上げた。
「正直に名乗り上げないつもりですか!それなら連帯責任です!今日はこのまま昼食なしで業務に
入ってもらいますよ!」
その怒鳴り声に子供達は震駭し静まり返った。
疲れました。じゃあ次回ってことでー。
posted by 吉田道弘 at 16:49|
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「冬に咲いた花」
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プロフィール

名前
吉田道弘
生年月日
1987年5月7日
性別
男
血液型
AB
テキトーな紹介
音楽や創作が大好きです。
自分自身もバンドや創作活動してます。
猫もびっくりなくらい気ままなやつです。
っつーかバカです。
URLのスペル間違いは素です。

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